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『ジミ迷宮』

「おーい、犬神ー」
遠くから姿を見つけたのか、体操服姿で手を振りながらくるみが犬神に駆け寄っていく。
裏庭で休んでいた犬神は、くるみに気づいて右手を上げて合図した。
ほどなくして息をほんの少しだけ荒くしたくるみが犬神の前に立って影が落ちる。
「なにしてんの、こんなところで」
「静かに休んでいたんだ、今日は五十嵐先生も来なかったしな」
「もう、相変わらずだね。私の活躍を見せたかったのに」
にこにことくるみが言う。
犬神はその笑顔を見てまぶしかったのか顔をそらし
「・・・・見たよ」
そう低く小さな声で告げた。
「え、なんだー、ひゃーー照れるねえ」
くるみは照れ隠しなのか頭をかきながら円をかくように歩き、
また犬神の前に戻ってくる。そして、
「あ、あのさ…今日、この後どうかな?」
顔をあげた犬神は、
「C組で打ち上げがあるんじゃないか?」
「優勝はD組だったから、簡単なのしかないと思うよ、だからさ、その後に、ね」
前かがみになって顔を近づけてきたので胸が強調される。
スポーツの後の爽やかな女の子の匂いと汗が混じった風が犬神の顔にかかった。
一瞬見蕩れていた犬神が眼鏡を直しながら
「ああ、いいよ。くるみ」

「やったー」
くるみはその場小さく喜びのジャンプをして
「じゃあ、また後でね」
元気良く駆け出していった。

中学時代は同じ学校だったけど、それなりの知り合いだった。
それに中学の頃の私は、バスケでMVPを取るような、今と違ってそれなりに目立っていた(つもり)。
そう、高校になってからの地味とか取柄が目立たない女の子じゃなかったの。
なのに、なのに……ららるー
涙が出てきた。

そう中坊のころの私達は、早い子は経験もあったようだけど、それこそ恋に恋する年頃で、
同級生の男子はまだどこか子供で頼りない感じ。
なまじ何でも器用にこなす兄貴とくらべたら、それこそコレハって思える存在はいなかった。
その兄貴も意外と子供っぽい所があるしさ、せいぜい友達とわいわいどの子とどの子がとか噂をして楽しむくらいだった。
付き合ってる子でも、デートは近場の公園だったとかその程度よね。
だから、色恋ざたよりも部活の方が面白かった。
中学はほんとにエンジョイしてたと思うのよね。

それなのに、

高校は桃月学園。
近場で自由な校風だしさ、それまでの私とは違う事をしてみたくなった。
だから、中学で熱中していた運動部にも入らないでいた。
うーん、違うかな、何か環境が変わって…上手くいえないけど、人付き合いもうまいし輪から外れたわけでもないんだけど、
何かこう、ぽっかりと何かが抜けて軽くなった感じがしてた。
同じようにやって楽しいはずの学校生活なのに、

……ららるー…

なぜか地味、目立たない、忘れられる…存在になったの?
そりゃ自分から目立つ存在になろうとはしなかったけどさあ!

……なんで私は、こんな事を思ってるんだろ。
そうそう、犬神の事よね。
高校生活、それこそ始めの頃は隣のクラスの同じ中学出身ってだけで、普通に友達。
それ以上でもそれ以下でもなく、なまじ中学時代を知ってるから恋人候補にも思わないような存在。
だって、中学時代のあいつは、それこそ外観、剣道少年のマジメ堅物にしか見えない。
あの白髪じゃなくてシルバーの髪で入学時から注目のまとだけど、その正体はマジメ君無関心君だったのよね。
ラブレターもすぐに返すような、そこが痺れるとかミーハーな子は騒いでたけどね。
ま、スポーツが出来たら中学なんかは人気は出るわよ。私だって後輩(女の子)から手紙貰ったわよ。
学校が終わって道場がある日は早めに帰宅してたし、妹の面倒もよく見ていたから、変な虫は取り付けなかったみたい。

つきあってから犬神になんで剣道やめたのって聞いたら、
少し悩んでから、自分の実力もわかったしそれまでと同じように道場に通う必要もないと考えた。
中学の卒業、高校、ちょうど良い機会だと思ったからだとか。それで勉学に励むか?
派手な頭してるのに、堅実を選ぶから苦労で白髪とか見られるんじゃねーのと思う。

そうそう、付き合う事になったキッカケの話をしようと思ったのよね。
私が犬神をちょっと特別だと意識しだしたそれを、
それは……、

「犬神、今日は何にする?」
「そうだな…今日は…」
「コーヒー、紅茶、それとも私?なんつって」
いきなりの会話に犬神は吹きそうになった。
額に汗を浮かべながら、眼鏡を直す。
「!……コーヒーで」
「あいよ、マスター、コーヒー一つね。私の分はマスターの奢りで」

「くるみちゃーん、いつもタダで済まそうとしないの」
「いーじゃんマスター、どうせ長時間置いてたのは残ってて捨てるんでしょ」
「あのね…自分で淹れるかい?」
「それに、お客さん連れてきてるじゃない、ね!」
「従業員割引とか言って特別価格にしてるでしょ」
客を連れてくるって同伴出勤ってうちは風俗じゃないんだけどなあ。
「まー、まー、さくらの客だと思えば」
くるみはカウンターに腕をのせて体を乗り出して話をする。
向こうからみれば、ちょうどお尻がいい具合に突き出されているだろう。彼の顔色変ってないけどね。
「はい、二人分できたよー」
トレイに載せて犬神の居る席へ運んでいく。
お金ができるだけかからなくて、一緒に居られる時間がとれる場所と言う事で、くるみのバイト先が放課後の二人の場所になっていた。
「お待ちどうさま」
ウエイトレスモードでコーヒーを置く。
「私は…いいんだぞ、正規の料金で」
「いいの、いいの、もともと流行らないトコなんだし」
そして、犬神の向かい、店の入り口が見える方に座り会話しだす。

いつの間にかそれが日常の風景になってしまっていた。
よく、あのくるみちゃんに、男の子が出来たなあと口には出せないがそう思いながら店長は眺める。
「くるみちゃーん、バイト時間なんだから忘れないでねー」
「わかってるって、お客さんが来たらちゃんとするからさ」
くるみちゃんが手を振って、犬神が引き攣りながら会釈をマスターに向かってする。
実際、くるみがかかりっきりで待機していても、客は来ないのだ。
店長と萌えについてだべっているのと、今の状態にそれ程差はないのが事実だった。
そう思い返すと、店長はふと自分のためにコーヒーをいれた。
「ボクはさ、あのくるみちゃんの笑顔が見れるだけでいいのさ、報われてるよ」
もう完全にずれた部分で自分を慰める。
しかし、好きな人と一緒に居るくるみちゃんは、それまでの客がいなくてうだってるくるみちゃんよりは、
活き活きしてて、可愛さも増している……ような気がする。地味だけど。
ちなみに犬神くんも一緒にバイトするという案は二人分の時給を払うのが嫌で断った。
人前でいちゃいちゃできる程度の明るい男女交際かあ。
店長は自分の高校時代を思い返して、すぐに妄想にひたっていた。
そんな状態でも問題ないくらい客が来ないのがいつものことだった。

最初は、ここが私のバイト先って紹介されながら、彼はやや緊張しながら入ってきて、友達とくるみちゃんは紹介してくれた。
その後はとびとびで後から客のように来たけど、いつの間にか同時に来て一緒にいるようになった。
カウンターの中で、どこまでいったの彼氏なんでしょって聞いたら、真っ赤になって俯いて「やだなー!」ってバンバン背中をバカ力で叩かれたよ。
テスト近くや宿題のあった日は、ここで教えてもらったりしている。
えんぴつで頭をかきながら考えて苦笑したり笑ったりしながら教えてもらっていて、見たこと無い表情を見るようになったし、明るくなった。
そう言えば、家には兄妹がいるから、お互いの家に行くよりは、ここの方が安心できるって言ってたなあ。
兄妹かあ…
くるみちゃんの双子の兄の事はこの前聞いたけど、彼の方の妹は聞いたこと無いな
…銀の髪に白い肌、きっとグラマーで彼みたいに知的で、もしかして巨乳で…おお…来てくれないかなあ
また違う萌え妄想に店長は耽るのだった。

「犬神、あれ見てみてっ」
「ん、何かな」
くるみがショーウインドウを指差してうきうきしている。
「かわいいねえ、そう思わない」
「そう だな」
「お、こっちのも綺麗」
「欲しいのか?」
「え、いいよ、あたしゃ見て楽しんでるだけだから」
「そ、そうか」
「そうそう、お、これなんてベッキーに似合いそう」
「……」
「ん?どうかした」
反応がいまいちなので、くるみはウインドウに映る姿でまず確認してから、大丈夫そうなので振り返って聞いてみる。
「…本当に欲しいものがあったら教えてくれ、何かプレゼントしたいからな」
少し照れを隠し切れずに犬神が言う。
にへらと笑ってくるみは、テレテレで
「ありがとう、その時は…言うね」
地味だが、楽しいひと時。
ささやかな幸せを噛みしめれるようになったのも、そういう事ができる犬神が側に居てくれるからだ。

「ね、犬神」
犬神の腕に抱きつき体重をかける。
「お、どうしたんだ。急に」
「犬神は欲しいものない?」
「私は…」
何と答えるべきかくるみの顔を見つめて真意を読み取ろうとする。
「まじまじと見て、私が欲しいのかい」
恥ずかしさからちょっとおどけて、それでいて求めてくれるかなと期待を込めて見つめ返す。
「な゛……そういう事は…その…」
困った犬神は、しばらく戸惑ってから、意を決め、マジメな顔になって
「当たり前の事を聞くものじゃない」
わかりにくい答えをした。
自分の胸を押し付けるようにくるみはさらに腕にくっつき。
「…両者合意とみとめまーす」
行司のように呟いた。

「犬神、あそこ入ろ」
「あそこか、私は構わないぞ」
「おし!」
犬神をつれて個室へ。二人きりのデートでさらに二人きりだ。
ここなら…流石に人前で出来ないことも出来る。なんだか緊張してくる。
「のど渇かない」
「そうだな、少し」
「飲み物注文するね、何がいい?」
インターホンを使って二人の飲み物を注文。
来るまでの時間はどうも手持ちぶたさで、そこら辺のものを捲ったりする。
しばらくして「ごゆっくりどーぞー」
店員が出て行ったら、後は二人の時間だ。
BGMだけが流れて、二人は照れ笑い視線を交わしながら飲み物を飲む。
3時間しかないんだから、それほど悠長にしているわけにもいかない。
ごくりと飲み込んで、ついでに氷もガリっと噛み砕く。うーー、冷たー。
よし!
「犬神っ」
「なんだ?」
「あー、せっかく来たんだしさ」
思い切って隣り合って座っていた犬神の方を体ごと向けて切り出す。

「おーし、準備万端」
「くるみ?何をしてるんだ」
気合を入れていたら兄貴が聞いてきた、
「え、な、なんでもないよ、あははー」
「意気込みすぎて失敗踏むなよ」
予想通り誤魔化せなかったようだ。
昨日、犬神と電話で話したもんなー。ドアごしに聞かれたか。あざとい奴め。
兄貴がいるから、家に呼びたくないんだよな。何をしたか筒抜け。
それで致命的に困るわけじゃないけど、やっぱ恥ずかしいでしょ。
「邪魔…しないでよね」
「するか、そこまで暇じゃないよ」
「それならいいけど」
少し疑ったままの眼差しで兄貴を見る。
「あんまり本性みせすぎたら犬神に嫌われるぞ」
「っ!そ、そうかな」
犬神との付き合いの深さは兄貴の方が長い。男同士の気安さで話せて知った事もあるのだろう。
以前は気になんかしなかったから、ありのままの姿を晒していたわけだし、今さらって気もするんだけど、
それは、それ。私だって普通の女の子なのよ。
付き合ってるんだし、今日こそはキスくらいしてみせるわよ!

犬神は出かけるのも一苦労していた。
電話後の表情如何によって読み取られてしまいかねない。
しかし、嘘をつき通すわけにもいかないので、当日になって
「修の家に遊びにいってくる」
「お兄ちゃん、最近また桃瀬さんの家によく行くね」
女の感なのだろうか、それとも後ろめたいからなのだろうか、探られている気がして背中に汗を書く。
いつの間にかよく一緒に居るようになって、それで告白というか確認して付き合っている事になった。
友達の延長のような、そうでないような成り行きなので、わざと秘密にしていたわけじゃないのだが、言うタイミングを逃しているのは確かだ。
そして、それを告げる時は、たぶん…いや間違いなく大変だろうとは思う。どうしたものか家を出てから悩みだした。
ふと、さっき出てくるときの対応はおかしくなかったか思い返す。
「ああ、修達とは高校の活動で一緒にする事が多くなったから、打ち合わせなど色々あってな、今日は天気もいいし雅も遊ぶといい」
「…うん、…いってらっしゃい、お兄ちゃん」
雅がとてとてと早歩きで玄関まできて止まる。
「夕飯までには戻るから」
「うん」
頭を撫でてやると、とても嬉しそうにはにかみながら見送ってくれた。
よし、問題ないだろう。
問題があるとすれば帰宅時だな、迎えてもらってくっついてくるだろう雅の鼻を騙せるのだろうか。
今晩の夕食がカレーなどの匂いのきついものだと助かるのだが…。

考えていたらもう修の家の近くまで来ていた。
手ぶらもなんだし、犬神は寄り道をしてから向かった。

「いらっしゃい犬神!」
くるみは満面の笑顔で出迎えた。
「来たよ、コレ、お土産」
「え、何。あ、お菓子買ってきたんだ、律儀だね。犬神って両親の挨拶にもきちっと持ってくるタイプだね」
軽く思いついたことを言ったのだが、後から大変な事を言った気がして焦る。
「えーと、と、とにかく入って、さあ、さあ、お茶出すから。コーヒーそれとも紅茶、普通のお茶?」
ダイニングに向かって土産の入った袋を持って慌てて引っ込む。
「おじゃまします」
誰にともなく拶をしてくるみの後を追う。
「今日は修は…居ないようだが」
「あ、兄貴はさ、昼、用事あるんだって。帰ってこねーから」
昼飯代+アルファで追い出しは完了済み。しかし焦って居たところに二人きりなのをバラして意識し、さらにお約束的に余計に焦る。
やる事じたい地味だった。

それは……
校内バスケ大会。昔取った杵柄でベッキーを活躍させようと一肌私は脱いだのだった。
私の行動はうまく行って、気づいたのは兄貴とほんの数人くらい。
他にはバレなかったと思ったのに。
体育館裏でサボっていた犬神たちは何やら賭けをしていたようで、
翌日、聞いてみた。
「あんたなんでC組にかけたのよ?」
ついでに奢ってもらおうと思ってね。
「お前が居たし、練習を宮本先生としていただろ?それだけやる気があるならと思ったんだ。中学の時のは伊達じゃないだろ」
そんな所まで見ていたのか、犬神の奴って案外…
「なら私のおかげなんだし、私にも奢ってよ。いいでしょ、なー」
こうして、デザートカードげっとだぜ。
目的を達してうきうきしていたら、
「…髪型変えたんだな」
「え、判る?」
自分から言わずに他クラスで気づいたの初めてだよ。
嬉しくなって笑顔で聞き返す。
「それは判るだろ」
何を当たり前の事を聞いてるんだと怪訝な顔をしていた。
それでもいいの、気づいてくれる人が居ただけで今の私には嬉しいことなのだ。
スキップしながらその場を後にして廊下を軽やかに進んでいった。
つまづいて窓から飛び出したけど……

その時は思わなかったけど、……今、思い返すとアレは確実に私の心に響いていたわけだ。

カラオケボックスから出る。
努めて冷静さを装うが、あんな事をしていたわけだから完全にするのは無理がある。
それはくるみも同じようで、まだ顔が赤い。
問題なのは外見よりも、一度火がついたものだから出さずに我慢し続けるのがとても体に悪いのだ。
気を許せば先ほどのくるみの感触が蘇ってくる。
「それでさ、犬神」
呼びかけられてハッとして
「な、なにかな?」
「中途半端で、その、ごめんね」
申し訳無さそうな顔をする。
「それはお互い様だろ」
どこでもキスをするような現代カップルなら、ここでお詫びのキスでもするところだろうが、さすがに犬神にはできなかった。
「あ、そうだね…」
「最後まで犬神としたかったな。な、なんてね、えへへ」
くるみが抱きつく腕に力が入って最後は笑ってごまかす。
「…私もだ。その……そのうちホテルに行くってのはどうだ」
「え、マジ?」
犬神にしては提案が大胆すぎたのか、くるみは驚いたように確認する。
「いやなら無理にとは言わない」
「無理じゃない、全然!だから…」
「よし、私も楽しみにしておくよ」
くるみの頭を撫でる。

しかし、この約束が具体化するまでにはまだまだ時間がかかるのであった。

くるみの家まで送っていく。
「それじゃあ、今日は…その、楽しかった」
「うん、私も楽しかったよ、その途中まででごめんね」
「構わないさ、またな」
その日はもう夕方近くであって二人はわかれようとした。
道へ戻ろうとしたときに
「あ、犬神まってよ」
「ん、何だ?」
振り返った犬神にすっとキスをした。
「じゃね、犬神!」
くるっと翻すと手を振りながらくるみは家に入る。
「やられてしまったな…」
不意打ちを食らった犬神は赤面し、今度は自分の方からと考えていた。

そして自宅に帰る犬神。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃんおかえりなさい。早かったね」
妹が迎えにでてきて抱きつかれた。腰あたりに胸があたる。
まずい!
犬神は雅を体から離す。
「?  どうしたの、おにーちゃん」
首を傾げて不思議にそして何故かわからなくて困った悲しいという顔をしている。
「み、雅、その…だな……走ったりして汗をかいたんだ、だからシャワーを浴びるから」
「走ったりしたの?…今日ってくるみさんと…で、デートだったんだよね…あう…」
そんなに汗臭くはなかったけど…
「ああ…そうなんだが」
モット説明しようか悩んでいると何か納得しているようだ。まさかデートは二人でかけっこするものだとか思ったのだろうか。
雅の誤解を解決するのは難しそうだし、後回しにしてシャワーを浴び頭を整理する事にした。
風呂場に長居をして変に思われても困る、犬神は昼間の出来事を思い出して素早く  抜いた

「キス……しようか…」
犬神の瞳を見つめる
「……くるみ…」
犬神はくるみの頬に手をそえて顔を近づけていく。そして瞳を閉じて唇を重ねた。
柔らかで温かい感触。さっき飲んだ飲み物のせいか、どことなくそんな味がする。
くるみが犬神の胸に手を置いてさらに唇を押し付けるようにする。
犬神はくるみの肩に手を置いて力をこめ抱き寄せる。
舌をつかって、くるみの唇をなぞると、唇は甘く開いて犬神が入ることを許可し、
くるみの中に入った舌はゆっくりとヘビのようにくるみの口腔内を移動して調べていく。
流れ込む唾液が混ざり合い、さらに二人の舌が出会うとくちゅちゅぷと絡ませあい音を立てて交わりあう。
二人の顔が離れたころにはBGM代わりに入れていた曲が終わっていた。
「……くるみ…その…」
「とってもよかったよ、犬神」
乙女モードなくるみが犬神の胸に身を寄せて微笑む。
「私もだ」
犬神は、この後どうするか迷った。ここは、カラオケボックスだし、さすがにやり過ぎはまずい。
しかし、この機会は……くるみはこの先をしても怒らないだろう。それどころか望んでいる気がする。
くるみを抱きしめながら苦悩を続けた。

カラン、溶けた氷が音をたてて崩れる。
それでハッとした犬神は、手を伸ばして一口飲んだ。

「ねえ、私も…欲しいな」
この、下から見上げる甘えた顔に犬神はぐらっとしながら試案した。コップを渡すべきか、それとも……
「今から飲ませるからな」
もう一度口に含むと、くるみに口づけして口移しで飲ませる。そして、また抱きしめあい
「ねえ、後どれだけ時間ある?」
犬神が時計をみてみると
「あと2時間だな」
「カラオケボックスでこんな事してるのいけないよね、でも…いけない事ってしてみたいと思わね?」
小悪魔っぽく笑ったら、くるみが犬神の手をとって胸に当てる。
犬神は少し驚くが、その手に力をいれて、くるみの柔らかさや大きさ、弾力を味わうように揉みだした。
「……ん……っん……」
時折、甘い声がくるみからこぼれる。
その声を聞くともっと手の動きが早まって大胆になる。
「犬神ぃ…」
「柔らかくていいものだ…」
見つめあい、またキスをしながら胸を揉んでいく。
くるみはうっすらと汗をうかべ、顔を赤くしている。
「ねえ…直接さわって…だめ?」
こらえきれないという顔でくるみが言ってくる。
さすがにそれは何かあったらすぐには対応できない。だが…
犬神は服の裾から手を入れてくるみのブラをずらし直接揉みだす。
くるみは犬神のズボンに触れた。硬くなっていることに気づき。
「嬉しい、私で興奮してくれてるんだ」
「…当たり前だろ」
犬神は罰が悪いのか困ったように照れている。
「どうしようか…私はいいよ…このままじゃ苦しいでしょ」
「さすがに…ここでそれは…まずい…」
どうしようか迷いながらもくるみは手を置いただけで、それ以上の刺激を与えないようにした。
手コキだろうが、犬神のアレをしゃぶるにしても、それ以上でも、ここはマズすぎか。
そういうところはこの状態になっても常識人であくまで地味な二人だった。
それでも、残りの二人だけの時間を楽しむ。

手洗いで服を直してから戻ってきたくるみは、
「犬神…ありがと」
腕に抱きつくように組んでくる。そのままなんとか犬神は涼しい顔で会計を済ませ店を出た。

(じみにどこかに続く)


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