今日も今日とて、当たり前のように客が来ない俺の城・エトワール。
BGMのオルゴール調なアニソンと、
俺が皿を拭くきゅっきゅっという音だけが店内に響く。
でも食器拭きで時間潰すにも限度があるよな。バー「魔の巣」じゃないんだから。
「最近学校で盛り上がった事ないの?」
地味な看板ウエイトレスが地味にヒマそうなので、
あたりさわりのない、地味な質問をぶつけてみた。
何か面白い話、あるいはせめて暇つぶしになる切っ掛けが出てくればいいな、とは思うが、
おそらく地味な、膨らませようのない回答が返ってくるんだろう。
「うーん、そうねー…」
腕を組み、天を仰いで考えるくるみちゃん。
見た目はちゃんと可愛いのになあ。
組んだ腕で強調された胸もいい感じなのになあ。
なんでこんなに萌えないんだろう。人外なのかなこの子。
「…あ、二の腕って、柔らかさが胸と同じなんだって」
「ええ! 二の腕!!」
予想外の答えが返ってきた。
それ、もしかして新たな萌えジャンルなんじゃないか?
「それ聞いてさー、みんなで揉みまくり」
「揉みまくり!?」
女子高生がみんなして二の腕を揉み合いしている光景が、一瞬のうちに脳内で構築・再生される。
スタイル抜群なメガネ少女の二の腕に、ぱつんぱつんの弾力があったり、
ちっちゃいけど男勝りなスポーツ少女の二の腕は、細いながらも発展途上の感触があったり、
ちょっとふくよかな諜報少女の二の腕が、ふにふにと手に吸い付くような触り心地だったり、
いつも着ぐるみばかり着ている少女の二の腕は、締まってるのに予想外の柔らかさだったりするんだろう。
いや、全部妄想だけど。そんな少女たちがいるといいな、的妄想だけど。
「どーでもいい話だね」
「二の腕萌え!!」
どーでもよくない。これはマジで萌えジャンルだ。
いい話を聞かせてもらった。くるみちゃんを雇って良かった、と初めて思った。
ていうか俺も実際に揉んでみたい。
「あ、くるみちゃんの二の腕はどんな感じなの?」
「どーだろ? 揉んだヤツは、ハリがある、とか言ってたけど…よくわかんね」
話の流れでいけば「あなたの胸はどのぐらいの柔らかさですか」という質問と同義なんだけど、
感覚的にはあくまで二の腕の話だから、女の子も別に抵抗を感じないらしい。
これもまた新発見だ。女子高の前で街頭アンケートとか採りたくなってきた。
しかし、そうか。くるみちゃんのにはハリがあるのか。
「…んー、くるみちゃんの二の腕、触ってみていい?」
「あ、それが一番わかりやすいかもね。いーよ?」
話の流れでいけば「あなたの胸を揉んでもいいですか」という質問と同義なんだけど以下略。
地味なネタフリだったのにすごい展開になってきたぞ。
カウンターの外側へ回り、くるみちゃんの隣に座る。
くるみちゃんは俺に背を向けて、腕を前へだらりと伸ばした。
背中に透けるブラ線がやたら艶かしい。白か。違うな、ピンクだ。
「…(むに)」
「あはは、くすぐったい」
エトワールの制服の上から、恐る恐る手を触れる。
制服はオールシーズン半袖にしとくんだった、と後悔した。
しなやかな筋肉によるものか、それとも若さゆえか、
くるみちゃんの二の腕には、柔らかさの中に確かなハリがある。
ぷよぷよ、ではなく、ぷにぷに、だ。この違いは大きい。
くるみちゃんの胸はこんな感じなのか。ぷにぷになのか。
「…(むにむに)」
「どーよ? 私のとはいえ二の腕だし、萌える感じ?」
「…うん、地味に萌える(むにむに)」
「…萌えてなお地味なのかよ」
はじめはセカンドバッグを掴むように指比4:1で、
次に実際に胸を揉む要領で、指を開いて揉んでみた。
手のひら全体、特に指の内側の薄い皮膚に、くるみちゃんの柔らかさと体温をバシバシ感じる。
いかん、これは麻薬だ。永久に揉んでいたくなる。
「あー…なんかキモチよくなってきたかも」
「…そうなの?(むにむに)」
「ん、なんてゆーか、マッサージみたいな感じ?
凝るような場所でもないのに、凝りがほぐされてる気がする…あったかいしさ」
胸と同じ柔らかさでどうこう、という情報があるところへ
キモチイイなんてワードがねじ込まれたら、もう俺の脳内はお祭りだ。
くるみちゃんが目を閉じて腕へのマッサージにほんわかしてる、という情景が、
くるみちゃんが胸を弄られて俺の指捌きに感じちゃってる、という情景に脳内変換される。
「…ふー……ん、んんん…は…ぁ」
で、また俺の妄想を助長するかのような、このくるみちゃんの息遣い。
ちゃんと聞けば、風呂に浸かったときに出るような声だ、ってわかるだろうし、
実際今もリラックスしてるからこそこういう声が漏れてくるんだろうけど、
俺の耳はそんなふうに聞き取っちゃくれない。
これは完全に愛撫されてるときの声だ。喘ぎ声だ。
「ん…ぁぁ…あ、はぁ……ぅん…っ」
ダメだ。俺自身に血液が集まってきた。
手に感じる官能的な柔らかさといい、
身体をくつろげて俺に体重を預けてくれちゃってるくるみちゃんの姿勢といい、
どうにもこうにも辛抱たまらない。
くるみちゃんだって、これ、ホントは感じてんだろ。なあ。
地味だから大きな声で喘がないだけなんだろ。そうなんだろ。
「ん、むー…ふぁ……あっ、あ、んんっ……」
呼吸のたびにふるふると上下するくるみちゃんの膨らみを、肩越しに凝視する。
アレだ、こっちの、本家の胸のほうにもいっちゃうか。
「ホントに胸と同じかどうか確かめていい?」とか聞いちゃうか。
ていうか、いっそもう聞かなくてもいいんじゃないのか。
いきなり触っちゃってもいいんじゃないのか。
いいんじゃないのか、というより、いいよね。多分いいよね。絶対いいよね。
カランカラン♪
「っ!?」
「おう、今日は暑ちーなー。アイスコーヒーもらえるかい」
「んぁ…? …あ、あー、いらっしゃい、とーりょー」
…鐘の音を響かせて、棟梁が店内へ入ってきた。
妄想と混ざり合っていた俺の視界が、一気に現実へ引き戻される。
危なかった。もうちょっとでくるみちゃんの胸を問答無用に鷲掴むところだった。
ありがとう棟梁。間がいいのか悪いのかわからないぞ棟梁。
棟梁の席へ水を運び、笑顔で話しこむくるみちゃんを見つめながら、
俺はあの感触を忘れないよう、指を数回ワキワキさせた。
…。
……。
………。
「…て、てんちょー? なにこの新メニュー?」
「ああ、『くるみちゃんの二の腕』のこと?
やー、萌えないくるみちゃんでも、二の腕はかなりアリだ、ってわかったからねー」
「いやいや、え? アリって、うん、何が?」
「ほら、メイドカフェのジャンケンオプションみたいなもんだよ」
「や、知らないけどさ…。
…なに? これ注文されるとどうなるの? 私、二の腕揉まれるの?」
「うん」
「コーヒーと二の腕、とか言われるの?」
「スマイル感覚だよね」
「マジで?」
「萌えが足りなくても、これなら看板娘として売り上げに貢献できるわけだし。いいでしょ?」
「いや、いいも悪いも…意味がわかんないってばよ。
てゆーか、私の意志は?」
「100円」
「安いし!」
<了>