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『チョコレートは3つだけ』

「………なあ、一条」
「はい?」
私が少しだけためらいがちに言うと、一条は文庫のページをめくるのをやめ、ベッドに腰掛けたまま
いつものようにぼうっとした声でこたえた。

残暑があるのに大して残寒、とか残冬とかいう言葉があるのかは知らないが、
二月の中旬というこの時期にまだ気温が十度を下回るのは十分『残冬』といってよさそうだ。
一条の向ける視線がなんとなく痛いような気がして、ごまかしにもならないのに上着を羽織り、
机に乗ったカップに手を伸ばした。一条が淹れてくれたコーヒーは、美味しい。
ずずっと一口すすると、体の芯から温まった。
「あの、何か?」
「いや、そのな…… ……………すまん、なんでもない」
「そうですか」
頭をぽりぽりとかいて一条の顔を見ると、喉まで出掛かっていたことばが胸まで戻ってきた。
そのまま目を離してしまったが、一条のほうは特に気にしたふうでもなく、再び文庫に目を戻したようだ。
あらためて見ると意外と…いや、かなり端正な横顔だ。
もう一度コーヒーをすすった。やっぱり、美味い。

こち、こち、こち、こち。
時計の音が静かに、静かに響いている。
言うのが遅れたが、ここは一条の自宅、一条の部屋。ここには何度も足を運んでいるが、そのたびに
壁にかけられた時代劇俳優のポスターが増えている気がする。
部屋の中のそれ以外のところは女の子らしく、きれいに片付けられていて、目もくらんでしまうような
大量の文庫が納められている本棚は作者別にきちんと並べてあるくらいだ。
正直、感心する。自分も結構細かいほうだとは思うが、こんなことまではしない。
二人の妹の姉として、普段からこういうところもきっちりしているんだろうな。うん。

………いや、そうではなく。

また一条の横顔を見やると、ほとんどまばたきもせず、ゆっくりとしたペースで読書に勤しんでいるようだった。
…やっぱり…綺麗だな。
ああ、抱きしめたい。ぎゅうっと力強く、思い切り抱きしめたい。
まあ、『今日はおさわりはナシですよ』、なんていわれてしまったからできないのだが。
…そういえば、付き合いはじめて、もうどれくらい経っただろう。
かわいらしくて、気立てがよくて、ぼうっとしているように見えてちゃんとまわりに気を配れる、世界で一番すばらしい女性。
そんな女性を恋人としていることが誇らしい。
たまにこうして家に来てはこうして自分と彼女で本を読み、あとで感想を言い合ったりするのも楽しみの一つだった。
…が、今日。今日に限っては、どうやら少しだけ自分の心が穏やかではないらしい。
「…あのな、一条」
「はい?」
再び声をかけると一条はさきほどと全く同じ動作で顔をあげた。
顔を少しだけ横にかたむけてどうやら『?』の表情。
こんなことを言うのはバカだと思う。
だが、どうしてかさきほどからイライラする。
彼女と目をあわせづらくて、頬杖をついたまま意図的に目をそらした。

「…お前って、冷静だよな」
「え?」
「………すまん、やっぱりなんでもない。忘れてくれ」
「はあ」
言葉にしたとたん、やっぱり私はバカだという意識が急速に胸に広がった。
心の中でだけため息をついた。
一条は一条で、しばらく私の顔を見つめているようだったが、そのうち『まあいいか』、とでもいうように文庫の続きを
読み始めた。自分はまだほとんど読めていなかったが、一条はもう半分を読破しているようだった。
外で吹いている風が少し強くなったようだった。

「…………」
「…………」
ああ、なんでなんだ。
なんで、私はこんなにいらいらしているんだ。
…いや、わかっている。その理由はわかっている。わかっているんだが…。
一条に原因があるならまだしも、それは自分のせいで…しかも単なるワガママからきているのだ。
こんなに格好悪いこと、あるか?
「はあ…」
一条に聞こえないように目を伏せてため息をつく。別にラクにはならなかった。
むしろ自己嫌悪が広がって…ああー…。
「犬神さん?」
!!
「うお!?」
「大丈夫ですか?」

いつの間にか自分のすぐ目の前にきていた一条がずいっと顔を近づけて口を開いた。
…お、驚いた…。
こいつの気配のなさといったら、たまに怖くなることがある。
しかしすぐに、こんな吐息のかかる距離に一条の顔があることに、私の心臓が鼓動を早めたのに気がついた。
「?? 本当に大丈夫ですか?顔が赤いですけど…」
「いいいいいや、なんでもない!」
「病気をしている人は皆そう言うんです。ちょっとおでこ、貸してください」
ごち。
「〜〜〜〜〜!!」
「…やっぱり熱いですね。風邪薬、出しますね」
……………
……………
び……っくりした。いきなり、あんな…。
いくら、恋人同士だからって…もう少し、意識してほしい、と思う。

「苦いですけど、よく効きますから。ちゃんと全部飲んでくださいね」
「あ、ああ…」
コーヒーも胃によろしくない、ということでわざわざスポーツドリンクまで持ってきてくれた。
…う。本当に苦い。
眠たい朝に飲んだら一発で目が覚めそうだ。
「…ありがとう…げほ、げほ…」
「無理しちゃいけませんよ。もう少ししたら、今日は帰ったほうがいいです」
「…………そう、かもな」

ああ、まただ。また胸に広がるイヤな感情。
このままここにいるのがつらいのに、一条に『それ』を期待している。
もう、ここまできたらそれも期待できないはずだろうに。
それに……ああ、考えるのもいやだ。
もう一つ、一条に期待している『行為』。それこそ、バカでどうしようもないワガママだ。
「…………」
「? 犬神さん?」
「大丈夫だ」
「そうですか」
わざわざストーブまで用意してくれているこの恋人になんだかとても申し訳ない気がしてきた。
そんな私の様子には気づかない様子で、一条はいまだにじ…と、文庫に眼を落としている。
はあ、と自分でも意識していなかったのにため息が出る。
ちら、と机のデジタル時計に目をやる。
2/14、PM 5:30 の表示が点滅していた。
2月14日。
そう、今日はバレンタインなのだ。
そのことがどこか恨めしくさえ思える。時計に目を留めたまま、私は昼間の学校での出来事を思い出していた。
「いい天気ですね」
「…ああ」
屋上で二人そろってサンドイッチをぱくつく。
うん、今日も美味い。ハムサンドにツナサンド、キュウリとトマトの野菜サンドに、デザート感覚のジャムサンドまで、
どれも一条の気持ちがこもっている気がして自然と笑顔になっているのがわかる。
「そんなに美味しそうに食べてもらえると、嬉しいです」
「ああ、本当に美味いからな。天下一品だ」
「褒めても何も出ませんよ」
そういいながらも、一条も笑顔(そう認識できるのはごく限られた人間だけだろう。それがわかることに優越感を感じる)だ。
私が美味しい、といったからそんな顔を見せてくれると思うのは自惚れだろうか。
「…………」
「…………」
少し肌寒いが、太陽も出ているし空は真っ青。
カップルがのんびり過ごすには最高のロケーションだと思う。
「…………」

…こんなときにこんなことを考えるのはバカなんだろうか。
一条からまだ、チョコレートをもらっていないのだ。
いや、たったそれだけのことで私たちの仲がよくない雰囲気になるとは微塵も思わない。
思わないが、バレンタインという日にはやっぱり恋人からはチョコレートはもらいたいと思う。
…自分から『欲しい』とか言うなんてそれこそ自惚れ屋がすることだし、朝から少しだけやきもきする。
そういえばさっき、修が『もうもらったぜー』、なんて言って見せびらかしに来たか。うらやましい話だ。全力で殴っておいたが。
まあ、優奈はああ見えて攻めるときは攻める女の子だ。バレンタインともなれば、結構大胆になるのもうなづける話かもしれない。
「あの」
「ん?」
そんなとりとめのないことを考えていると、一条がぽつりと口を開いた。
「ちょっと、その…少し、席はずしますね」
「ん」
小さな声で言うと珍しく頬を少しだけ染めてぱたぱたと階段を駆け下りていった。
…多分、お手洗いだろう。やっぱり一条でも、恥ずかしいんだな。
一条がいなくなった屋上は、やたらと広く感じられた。
はぐ、とハムサンドをもう一口かじった。シャキシャキしたレタスとハムの旨みの組み合わせが絶妙だった。
空に流れるちぎれ雲を眺めていると、そんなチョコレートのことなんてなんだかどうでもよくなってきた。
いいじゃないか。
勿論、もしくれるならそれは最高に嬉しいし、もしかしたらこんな場所でも一条のことを思い切り抱きしめてしまう
かもしれない。
でも、そうでなくても私と一条は固い絆で結ばれていると信じる。
このまま何もなくても、もうあんなイヤなことは考えるのはよそう。
そう思ったときだった。
私の右横の、階段へ続くドアがぎぎ、とためらいがちに開けられた。
「ん、早かったな、いち…」
「………い、犬神君」
開かれたドアからのぞいた顔は、私の予想に反してブロンドが美しいクラスメイトだった。
「南条?」
「…ちょっと、いいかしら?」
顔を赤くして、どこかそわそわしている南条。
小さな手提げ袋を持っているが、後ろ手に回してどうにも落ち着かない様子だ。
…なんだ?
「い、一条さんが戻ってくるまでには用事、終わりますから…その…」
「? ああ、いいが」
「そ、そう…」
座るように促すと、さきほどまで一条が座っていたスペースのあたり――私の隣だ――に、ためらいがちに
座った。
すう、はあと胸に手を当てて深呼吸している。
そんなに大事なことなのかと少し身構えたところで、違和感が頭をもたげた。
…ん?
今の言葉だと、一条が席をはずすのを待っていたように聞こえる。
わざわざ階段の下で待っていたのだろうか。
一条がいると都合が悪いこと、なのか?

「あ、あの。…い、いい天気ですわね」
「? ああ」
すっと、南条が街の方の空を指差した。
白みがかった太陽の光が桃月市を覆っていた。
本当にいい天気だと思う。
しかし、そういった張本人はどこか上の空のようだった。
「まだ、寒いけどな」
「え、ええ…本当、ですわよね」
「………南条?」
「………え、えっと…」
どうにも歯切れが悪い。今の天気の話も、『本題』に入るきっかけに思えた。
また胸に手を当ててすうっと息をしている。
…せかしたら、まずいかな。
一条がもどってくるかもしれない、と少しだけそわそわしだした体をなんとかおさえ、南条の
次の言葉を待った。
「あ、あの。午後のテスト、ちょっと不安、ですわね」
「…そうか?普段からちゃんと勉強してればそんなには…」
「あ、そ、そう、ですわよね。犬神君ですものね…」
切り出した言葉は、やっぱり前置きのように思えて。
しばらくそんなとりとめのない雑談を交わしていた。
ただ、南条がきょろきょろと落ち着きなく視線を動かしていたせいで私もあまり落ち着けなかったのだけれど。

「……犬神君。あの、ヘンなことききますけれど、ちゃんと聞いてくださいね」
「? ああ」
ようやく本題に入ったようだ。さっきまでと違って、私の目をしっかり見詰めている。
すう、はあ。また深呼吸。
「一条さんから、チョコレート、もらいました?」
「!?」
反射的に『大きなお世話だ!!』とか言いそうになったがなんとかおさえる。
なんでって、南条がとんでもなく真剣な表情をしていたから。
こいつのこんな顔を見るのは初めてかもしれない。
「…もらい、ましたの?」
「………いいや」
正直にこたえた。なんだか無性に悲しくなってきた。
「……そう」
つぶやくように言った南条は、小さくガッツポーズのようなものをとっているように見えた。

妙な沈黙が場を支配した。
なんだ。なんなんだ。何の意図があってこんな…
「あ、あ、あ、あの、犬神君!!」
「は、はい!?」
そう思うや、校庭中に響きそうなうわずった大声で私の名を呼んだ。
お、驚いた…。
こいつも一条も、たまに本当に心臓に悪いことをする。
最近はいい加減に慣れてきたが、もう少し手加減してほしい。
「こ、こ、こ、こ、これ!」
「え?え?」
「も、も、もらってください!!」

返事も待たず、私の手にさきほどの小さな手提げ袋を押し付けた。
中身を確認しようとすると、まだ顔を真っ赤にした南条が息を切らしながらも先手を取った。
「あの、あの、…心、こめてつくりました!!ち、チョコレートです!!」
「へ!?」
「な、何も言わなくていいですから…もらってください!!」
すっくと立ち上がると、わき目も振らずにドアを蹴り開け、一直線に階段を駆け下りていったようだ。
なんかばたんばたん、という何か転げ落ちるような音がした。

「……………」
嵐のような一瞬だった。
手元の袋の中に視線を落とす。綺麗な赤の包装紙に金のリボンがまかれた小さな箱が入っていた。
いや、ちょっと待ってくれ。
これ、バレンタインチョコ、だよな。
心をこめてつくった、って言ってたよな。
…………
ウソだろう?
いや、確かに南条とはよく話す仲ではある。だが、プライドの高いあいつがまさか私みたいな男に…?
……
ぎぎ。

「犬神さん?」
「うわ!?」
ようやく一条が戻ってきた。あまりにぼうっとしていて気づかなかった。
そういえば南条との話は随分長く感じられたが、ほんの五分ほどしか経っていなかった。
「どうかしたんですか?その袋、なんですか?」
「! あ、いや、これは…」
ここまできて、ようやく自分のおかれた状況を把握した。
…これはまずい。これを一条に見られたら…
一条は、はっきり言って怒るとかなり怖い。
言葉を荒げる、ということはしないのだがとにかく視線が怖い。いつもの無表情に見えるが、その視線には
相手を射殺すようなオーラが宿るのだ。
「………ああ、南条さんからもらったチョコレート、ですね?」
「!!」
ぽん、と手を叩き、納得したというように口を開いた。
「な、なんでわかって…」
「南条さんと今、下ですれ違いましたから」

お、怒られる?
……………………………………………



あれ。
反射的に身構えたものの、一条は特に気にしたふうでもなくそのまま、また私の隣に腰掛けた。
するとすぐにまた、ぼうっとあの顔で空を見上げるのだ。
…てっきり、またあの強烈な視線で泣きたくなるほどにらまれると思ったのに。
「………一条?」
「はい?」
…内心、実はものすごく怒ってるんじゃないか。
いや、だって恋人が別の異性から重大な意味を含むプレゼントを受け取った、なんて聞いたら、怒るだろう?
少なくとも私はそうする。
「怒って…ないのか?」
「何をですか?」
「あ、いや…」

あっけらかんと言い放った。
むしろ、本当にわからない、というようなきょとんとした顔だ。
そんな顔されたら、言えるわけないじゃないか。そうだろう?
「…なんでもない。ほら、さっさと食べるぞ。もうすぐ昼休み終わりなんだからな」
「はい」
私の言葉にこくん、と小さくうなづくと最後のジャムサンドをはむ、と口に含んだ。
空を見詰めたままもにゅもにゅと口を動かしている一条は…その、かなりかわいい。
他の男子には絶対見せたくない、な。
そこまで考えて、自分が意外と独占欲が強いことを自覚した。なんだかますます自己嫌悪が強くなった。
少しだけ落ち込んだのがわかったのか、一条が目線を空から離さないまま、肩をぽんぽんとたたいてくれた。
「ええー、それじゃあここの傍線部の解釈じゃがー…」
5限の担当はジイサン先生の古典だ。
相変わらずわかりやすい解説で、居眠りをしている生徒もほとんどいない。
まあ、もし居眠りなんぞしようものなら何をしでかすかわからない、というのもあるんだろうが。特に、最近は。
右端の南条の席に目をやると、ばったり目があってしまった。
心なしか潤んだような瞳で、私のことをじっと見詰めていた。
恥ずかしくなってしまって、ばっと目を離してしまった。
ああ、なんてことだ。
一条以外の女の子からチョコレートをもらってしまって、それでも考えるのは一条のことばかり。
これじゃ、南条にとんでもなく失礼だ。
自己嫌悪が胸中に広がって頭をかかえる。それでも、何も解決はしなかったんだが。

だが、それ以上に私の頭をもたげていた疑問。
…なんで、一条は何も言わなかったんだろう。
あのときは、本当にあの殺人視線を浴びるのを覚悟していたのに、なんでもないですよ、とでもいうふうに…
いや、あの態度は本当に何も思うところはなかったように思えた。
なんで…
なんとなく、胸にちくりとした痛みが走った気がした。
「犬神さん?」
はっと気がつくと、一条が今度はそれほどは顔を近づけないで私の目をのぞいていた。
どうやら昼間のことを思い出しているうちに、半分眠ってしまっていたらしい。
また首を少しだけかしげて、『?』の顔。さっきと同じだ。
「ん、いや…」
「少し、寝てたみたいですね…熱、つらいんですか?」
「そうじゃなくってな…」
私がさっきから歯切れの悪い返事ばかりしているのが気になったんだろう。
私の目をじっと見詰めて、ぽつりと口にした。
「何か、お悩みですか?」
ことん、と新しいスポーツドリンクのペットボトルを机に置くと、手近な椅子を持ち出して私の正面に陣取った。
じっとあの目に見詰められて、なんとなく居心地が悪い。
「お悩みなら、話してください。ご協力できるかもしれません」
「あー、なんでもないから。大丈夫だ」
「話してください」
「いやだから…」
「話してください」
「その…」
こうなると一条はテコでも動かない。
だが、私のこの悩みともいえない単なるワガママを果たして言ってしまっていいものだろうか…。
まず一つ。南条からチョコ…しかもどうやら相当の意気込みでつくったらしいものをもらってしまって、一条のチョコが
欲しいと強く思ってしまっていること。
本当は南条になんて言おうかを…苦しいことだが、『お前とは付き合えないんだ』、ということを…真剣に考えなければいけないはず
なのに、そんな下賎な欲求が頭から離れない。
そしてもう一つ。これこそ本当に、自分のバカさ加減を自覚せざるを得ないことなのだが…。
一条が何も言わなかったことに対する、不満をはっきり感じている。
一条に、私が他の異性からチョコをもらったことに対する不満を示して欲しい。
…要するにだ。私は一条にヤキモチを焼いて欲しいと思っている。
なんだか、私のことをなんとも思っていないんじゃないかと邪推してしまうのだ。
そんなことは絶対ない、なんてのはよくわかっているはずなのに…。
ああああー、くそ…私はこんなに自己中心的な人間だったのか?
「…お薬、そんなに苦かったですか?」
「あー、ああ。かなり苦くてな…それでちょっと…」
「…嘘ですね。犬神さん、嘘をつくときは目が泳いじゃうんですよ」
「う…」
鋭い。
なんだか、普段は心ここにあらず、といった感じなのに私と話をするときは本当に心を読まれているのではないかと思うくらいに鋭い。
いずれ本当に『正解』を言われてしまう気がして、なんとか誤魔化せないかと目線だけであたりを見回した。
「あ…そ、そうだ!そう!課題がたまってるなあ、と…」
「犬神さんがですか?…そもそも、課題なんて学校で終わったからここに来たんですよね?」
「うう…」
なんで私と話すときの一条はこうよくしゃべるんだろう、とたまに思うことがある。
それは、私と話すのが楽しいからなのだろうと思うと嬉しくもあったが、今はちょっと気まずい。

「…さっきの、『私が冷静だ』っていう話と関係あるんですか?」
「…………」
「……あ」
不意に顔をあげて、少しの間だけ、ぼうっとしていた一条だったが、しばらくするとさっきみたいにぽん、と手を叩いた。
こくこくと何とはなしにうなづいて、一人納得している様子だった。
「わかりました」
「え?」
本当に珍しく、一条が笑った。にっこりと。
心から嬉しそうな、それでいてどこかいたずらっぽい笑顔だった。


「犬神さん、私にヤキモチ焼いて欲しかったんですね?」


「なっ……っ!!」
「あら?違いましたか?」
「ち、ち…」
ちが、わない。
違わないが、なんでいきなり結論に…しかも直球ど真ん中の正解に行き着くんだ!?

「なん、で…」
「だって、犬神さん。南条さんからチョコをもらってからひっきりなしに私のほうを見てましたから。
 あの顔、何か期待してる顔でしたし。『冷静だよな』っていうさっきの言葉を考えたら、なんとなく
 わかりました。南条さんのチョコ、気にしてるそぶりもありましたし」
「…………」
「『冷静』っていうのは、私が南条さんからチョコをもらってもなんとも思ってないふうに見えたことなんでしょう?
 それじゃ、答えは一つしかないじゃないですか」
笑顔のまま、くすくすと声をあげて笑う一条は、いたずらが成功した子供のように楽しそうだった。
…本当に、鋭い。

完敗、だ。
もう無駄だとは思ったが、私には顔を伏せてそれこそ子供のようにすねてみせるくらいしか選択肢がなかった。
「………」
「……あの、すねちゃいました?」
「すねてない」
「…もう」
…してほしい、と思っていたことが伝わったのになんでこんな反応しかできないんだ。
なんだか少し泣きたくなってきた。
だから、それは本当に突然に思えた。正面からの、ふわりとした感触。
「!?」
「…犬神さん」
「い、いち…」
抱きしめられていた。
一条の、意外にやわらかい感触。ちょうど胸のあたりに顔をうずめさせられて、何かとんでもなく恥ずかしかったが、
なぜか抵抗する気は起こらなかった。
「なんとも思っていなかったわけじゃないんですよ?」
「…?なに?」
「ふふ。私、犬神さんのこと、信じてますから。他の誰が、どんなことをしても、絶対私のところにいてくれるって」
一条の言葉はその優しい心を反映しているように柔らかく、安心できる。
自分の心がとろけそうな気がした。
「誇らしいんです。南条さんみたいな、すごい綺麗な人にチョコをもらえるような人が、私の恋人なんだって…。
 自分でもびっくりするくらい、嬉しかったんです」
ぎゅ、と一条の私を抱きしめる腕の力が強くなった。
嬉しい、と思う反面、情けなくもなった。
一条がこんなにしっかりしているのに、私はどうだ?…本当に、情けない。
「一条…その、すまなかった」
「え…何が、ですか?」
「私は、お前にヤキモチを焼いてほしいなんて、そんな子供みたいなワガママばっかりで…
 お前は私のことを信頼してくれていたのに」
言葉をしぼりだすが、そのたびに胸が痛くなった。本当に、申し訳なかった。
少しだけ体を離すと、一条はまだ、あのふわりとした笑顔をたたずませていた。

「いいんです。いいんですよ。男の子は、ちょっとワガママなくらいがちょうどいいです」
「そ、そうなのか…?」
「そうなんです。かわいいですよ」
かわいい、なんていわれて恥ずかしくなってしまった。
…男としては、あんまり嬉しくない褒め言葉だ。
「犬神さん?」
「男は、『かわいい』とか言われるの、あんまり嬉しくない」
「…もう、しょうがないですね」
半分はふざけているつもりだったのだ。
やられっぱなしは少し悔しいからとすねたふりをして、ちょっと困らせてやろうと思っていただけだったのに。
「じゃあ、お詫び。あげます」
「…?何

一条の柔らかな唇が、私のそれに重なった。

「――――――!?」
「ん…」
突然のことに頭がショートしているのがわかる。
ただ、漠然とこの行為をもっと続けていたいという思いだけが急速にふくらんでいく。
なんとか両手に命令を下し、一条の華奢な体に手を回した。
「……ん、ん…」
「はぷ…ちゅ… ……ん、んー…」
ちゅ、という水音をたてると、一条の舌が侵入してきた。

同時に、とろけるような甘い味が口の中に広がった。

「…? ん、ぷ…一条?」
「あ、ふぁ…ん、もう…いきなり、唇を離すなんてルール違反、ですよ…ん、ちゅぴ…」
一条の口から茶色い液体が零れ落ちた。
何かと思って驚いたが、自分の口に残る甘い味がそれが何かを物語っていた。
「……チョコ?」
「…ん、ちゅ…はい。…おいしい、ですか…?」
「あ、ああ…」
「嬉しい……ちゅ」
再び唇を重ねた。
今度は抵抗なく、一条の舌とチョコの甘さとカカオの香りを受け入れた。
やわらかい舌の感触と、一条の涎の味。それに、チョコレートの甘さで、私の脳は麻薬に侵されたように
再びなにも考えられなくなった。
「…は、ぷ… ん、ちゅぴ、…」
普段の清楚からは想像もつかないほどに淫靡に、妖艶に私の唇をむさぼる一条の姿に、私の理性は早くも
消えかかっていた。
がたん、と唇を重ねたままなんとか立ち上がると、そのまま一条のほうに体重をかけた。
「…!? ん、ぷ…」
どさ、と。
ベッドの上に押し倒したかたちになった。

やられっぱなしは性分じゃない。今度は私の番だ。
本能のままに一条の口の中に自分の舌をねじこむと、一条の涎をすべて吸ってしまうような勢いで攻め立てる。
…甘い。
こんなに美味しいものは、この世界のどこを探したってないような気がした。
ようやくチョコがすべてなくなって、ゆっくりを顔を離すと、一条の顔はもう真っ赤になって、目には涙が浮かんでいた。
「あ、その…すまん」
私の謝罪の言葉にふるふると小さく首を横に振る一条。
…やっぱり、かわいい。反則だ。

「おいし、かったですか…?」
「…ああ、最高だった」
まだかすかに口に残る甘さが、私にそんなはずかしいことを言わせる。
本当に、この世のものとは思えないほど美味しかった。
顔を赤らめてほんの少しだけ頬を緩めた一条は、視線を私から逸らして口を開いた。
「…あの、まだ。チョコ、少しだけあるんです。…食べ、ますか?」
「!」
その言葉の意味は言われなくても十分すぎるほどわかる。
胸に熱いものがよぎった。
「ああ。もらう」
「…はい」
どこから出したのか、小さな、少しだけいびつなハート型のチョコレートを取り出すと、そっと私の口におしあてた。
「一条… ん…」
「………ぅん」

さっきよりも随分ゆるやかなキス。
絡みあう舌に触れるチョコはまだ溶けず、固い。
しばらく互いを求め合って、ようやく溶け出してくると、心なしかさきほどよりも甘いような感覚が今度は全身に広がった。
「は、うぷ… ん、ちゅ、ちゅ…いぬ、がみさぁん…」
息を切らしながら切なげに私の名を呼んでくれる一条。
…今日は、おさわりはナシだっていわれたけど。
こんな状態で、我慢なんてできるわけがないじゃないか。

「………」
「きゃ!?」
欲しい。今すぐ、一条が欲しい。
そっと、セーターの下から指を這わせてみた。思ったとおり、可愛い声をあげる。
「い、犬神さん…その、今日は…は、あ、ふぅ…ちゅ、ちゅ…」
「すまん、一条…我慢、できない…ん…」
それ以上しゃべらすまいと、無理やり舌を一条の口中に押し込む。奥へ、奥へ。
完全にセーターの下に隠れた指を、つうっとやわらかい一条の肌につたわせる。
「ひぅッ!」
くすぐるような、でもそれほどは弱くない力で触れられるのに一条は弱い。
…こんなことを知ってるのも、私だけだ。
どこかでまた、優越感を感じながら口と肌の波状攻撃をしかけると一条の体はしだいに熱を帯び始めた。

「〜〜〜〜〜!」
びくびくっと大きく一条の体が震えた。
不意に私の体に腕をまわし、彼女の小さな体からは信じられないほどの力で抱きしめられる。
「! い、ち…」
「……!」
しばらくすると震えがおさまった。
口を離し、一条の顔をのぞいてみると顔を真っ赤にして恥ずかしそうに私から視線をそらした。
「…イったのか?」
「……………恥ずかしい、です」
かすれるような声。否定はしないのが、一条らしいと思った。
い、いかん…かわいい。かわいすぎる。
…本当に、我慢できなくなってきた。
騒ぐ胸をおさえて、一条の耳元で極力平静を保って聞いてみる。
「その、な。一条。続き…したいんだが」
「………今日は」
おさわりはナシ。
そういわれると思って一瞬体の力が抜けてしまうと思ったが、彼女の口をついて出たのは意外な言葉だった。

「…犬神さんがかわいいこと言ったから、サービスです」
「! ………い、いいのか?」
「2回は言いません。…私、サービス精神旺盛なんですよ?」
…一条には悪かったが、おかしくて少し笑ってしまった。頬を膨らませているのがかわいらしい。
半分は本当に『今日は特別』、といっているんだろう。
だが、一条の体を見ると、…もう、一条も引き返すことができないところまで準備万端だということくらい、わかる。
「一条…」
「は、う…」

すっと、もう一度唇を重ねる。
口内にたまった一条の唾液を飲んでみると、体の奥で自分と一条が溶け合うような感じがする。
お返しに唾液を送り込んでみる。ごく、とそれを飲み込んだ音が聞こえた。
なんだか、すごく興奮する…。
「んう……あう…」
あくまで丁寧に、唇の端から奥歯の裏まで舌を這わせる。
もっと、触れたい。溶け合いたい。
自然に腕が伸びた。セーターの上から一条の胸を揉みしだくと、また大きく、一条の体が震えた。
「やぁ…犬神さん、胸、ばっかり…」
「…仕方ないだろ。好きなんだから」
…誤解のないように言っておくが、別に一条の意外にたわわな胸だけが好きというわけではないぞ。
一条のことが、いいところも悪いところもひっくるめて好きだってことなんだからな!
「ここ…触るぞ」
「あ、ふ…!」
右手で胸をこねくりまわしたまま、一条の足の間に左手を忍ばせた。
ズボン越しでもわかるくらい、濡れている。くちゅくちゅ、という水音がした。
「はう…犬神さん、ったら、も、もう…指使い、やらしいです、よ…」
「ん、ちゅ、ちゅ…お前のことだったら、…ん、ちゅ…なんでも、知ってるぞ。…ここも、弱いよな」
話をしながらもキスはやめない。やめてやるもんか。
一条の舌が私の舌を絡めとり、唾液を激しく吸い上げる。
「〜! ん、ぷ…」
激しい快感に身を震わせながらも、胸を触っていた右手をつつ、と滑らせ、セーターの下のわき腹に這わせると
一条はますます大きく体を跳ねさせた。
「…! あ、あ…そ、そ、こぉ…!」
「…気持ちいいか?」
「やぁ…だめ、です…そこ、反則…ルール違反です…っ!」
相当に効いているようだ。そんなことを言われたら、もっといたずらしてみたくなってしまう。
こう、体を重ねるときの一条は普段とは違って感情をとても素直に顔に出す。
これは、さっきのおかえしだ。
思いながら、両の手を唇を、舌を同時に細かに動かすとますますかわいい声をあげる。

「や、やだ…また、イっちゃいます…っ は…う…っ!」
「いいぞ。…一条のイくところ、見せてくれ」
「は、恥ずかし…や、やあ…!!」
息がつまったような声を上げると、一条は何かがはじけたように体を大きく弓なりに反らせた。
「…! ……!」
ばふん、とベッドに体を落とすと、どこを見ているのかわからない目で体を小さく震わせていた。
「は、はあ、はあ、はあ…」
びりびりと電流が走っている感覚、と以前恥ずかしそうに教えてくれたことがある。
…気持ちよくなってくれたんだ。
そう思うと嬉しくて、もっともっと、一条に気持ちよくなって欲しいという気持ちが強くなって…
私はためらうことなく、再び一条のピンクに染まりはじめた肌に手を伸ばした。
「や、やあ…」
くちゅ、くちゅ!
「う、わ…」
思わず声をあげてしまった。
一条の秘所をこね回していた左手が、ズボン越しにもかかわらずはっきりとした湿り気を帯びていた。
「これ、すごい、な…」
「…は、はあ、はあ、はあ…や、やだ…」

体を動かす力もないほどに激しく消耗したのか、顔を両の手で覆っていやいやをするだけの一条だったが、
そんな間にもズボンに広がる染みは大きくなっていく。
…見方によっては、お漏らしをしたみたいだ。
「や、はあ、はあ…あ、つい、です…」
「え?」
「体、熱いです…せ、責任、とってください… は、はあ、はあ…」
しゅるる、と。
ためらうことなくベルトをはずすと、一条はそのまま乱暴にズボンを脱ぎ捨てた。
「こ、こんなに、したんですから…最後まで、私を、はあ、はあ…あ、あう」
「…一条」
『最後まで私を』、…述語は恥ずかしくていえなかったらしい。
一条の下着は、もはやその役割を全く果たすことができないほどに濡れ、もっとも守るべき部分がはっきりと
透けて見えるくらいだった。
「いち、じょう…」
そのあまりに扇情的な光景に、頭がくらくらした。
その部分はきれいなピンク色で、ひくひくと細かくうごめいているのが下着越しにもわかる。
だらだら、という音が聞こえそうなほどに液体があふれ、それは後から後から噴出して、どんどんと一条のベッドの染みを広げていった。

「は、はやく…もう、我慢、できません…あ、は…」
言いながら何かを訴えるような目で私を見つめる。
だが情けないことに、あまりに妖艶な一条のその姿に、私は動くことができなかった。
今すぐ、一条が欲しい。一条に、自分を刻み込みたい。
そう思っているのに、まるで金縛りにあっているように動けなかった。

「い、犬神さぁん…はやく、ぅ…」
本当に我慢できなくなったのか、力が入らない体に無理やり喝を入れてなんとか動き出した一条は
しどろもどろな動きで、自らの下着に手を伸ばした。
「一条…な、にを」
なんとか腹の底から声を絞り出す。
だがその言葉にこたえることなく、一条は何度か自分の足にひっかけながらも、下着を完全に引き抜いてしまった。
寝転がって私両足を上げているだけでも相当…その、クる体勢だというのに、自らの
秘所をためらいもなく見せ付けている。
「いれて、ください…は、はやく、ぅ…私、おかしくなっちゃいます…っ」
一条の声に私はようやく我に帰る。
勤めて平静を装って、一気にズボンを下ろすと、いつも以上に隆起している自分の分身を取り出した。
自分でも押さえがきかないのがわかる。あまりに固くなりすぎて痛いくらいだ。
「ああ、それ…はぁ、はぁ、は、ぁ…はやく…くださいぃ…っ」
ソレを見るなり、目から涙をこぼして懇願する一条もまた、いつも以上に昂ぶっているようだった。
チョコレートのキスで興奮したのかな、と頭のどこかで考えていた。

「い、いくぞ…?」
もう何度も体は重ねているが、いつまでたっても小さな罪悪感がぬぐえない。
この小さな体の少女を自分の好き勝手にしてしまうのに、どうしても抵抗があるのだ。
しかし、そういうとき。
「はい…いい、です。滅茶苦茶にしてください…」
一条は決まってこう言うのだ。
…女性から求められて行動しないのは、男のすることではないだろう。
「いくぞ」
その言葉に後押しされて、一条の中に自分を埋め込んでいく。
相変わらずその入り口はせまくて、熱くて…そして、私を放すまいとぎっちりと締め付けてきた。
「く、くぁ… ああ…一条の中、気持ち、い…… っ!」
「ああ、あ…これ、これが、欲しかったんです…あ、あ、…き、気持ちいい…」
一度最奥まで進ませると一度動きを止める。
互いにそのままで感じる快楽を貪った。
「い、いぬ、がみさん…だ、抱きしめて、ください…」
「ん、ああ…」
求められるまま、一条の背中に両手をまわす。
その背中はさきほどより、明らかに熱を帯びていて、ヤケドをするんじゃないかと錯覚した。
ぎち、と結合部分の締め付けが強くなった。
「は、はあ…う、動いて、いいです。…い、いいえ…動いて、ください…っ」
「いち、じょう…く、動く、ぞ…っ」
じゅ、じゅ、じゅぷ。
一条の求めるままに腰を降り始める。一条の肉はやわらかく私を包み込み、ひだがうねうねとうごめいて
電気のような快感を与えてくれる。
今でこそ少しは耐えられるようになったが、最初のうちは本当にすぐ、射精してしまったくらいだ。
脳がとろけるような感覚。
体が一条と溶け合う感覚。
それを感じていると、快感がますますはっきり、鮮明になる。

腰の動きが自分の意思に反してどんどん早くなっていく。
もう焦点がまるであっていない一条の瞳を見つめながら私もどんどん昂ぶっていった。
「犬神、さん…っ む、むね、さわって…ぇ…」
「は、はあ、…む、胸?」
「は、はい、胸、すごく、感じるんです…もっと、もっと、気持ちよくなりたいっ…!」
「うわ…!?」

激しく体を打ち付けあいながらも、一条はさきほどと同じように、今度はセーターを脱ぎ捨てた。
ブラのホックはさっき、私がセーター越しに触れたときにはずれていたのか、ぶるん、と大きな胸が顔を出した。
腰を動かすたびに大きく揺れて、とても…ああ、くそ。言葉にできん。
「さわって…さわって、はぁう、ください…」
「あ、ああ…っ く、は、はあ…」
むに。
むに、ぐに。
ちゅ、ぐちゅ、ぐちゃ。
腰を大きくストロークさせながら汗ばんだ一条の胸に手を伸ばすと、凶悪なやわらかさに脳がしびれる感覚がした。
しっとりと汗ばんでいて、手によくなじむ。
ほんの少し、力を入れるだけで大きく揺れ、ますます私の興奮を高めた。
「は、は、はあ、はあ、は…い、いい、です…」
「く…私、も…」
腰を打ち付ける速度はますます早くなり、互いに限界が近いのがわかる。
…ああ、足りない。まだ、足りない。
思った瞬間、体を倒して私は一条の胸に吸い付いていた。
「え、ちょ、あ…いぬ、がみ、さん…!」
ちゅ、ずずず、くりくり、ずず…
「! ひは、…や、乳首、ダメですっ… …!」
「…ダメ、じゃない」
乳首を唇ではさみ、思い切り吸い上げてやるとまた大きく、可愛い声をあげてくれる。
…やわらかい。そして、少しだけ甘い。
ああ、もし私たちの間に子供なんてできたら、きっとその子に嫉妬してしまうに違いない。
こんなに美味しい胸を独り占めにされてしまうんだから。
だから、せめてそれまでは。
私にくれたっていいだろうと思う。それもまた、ワガママなんだろうけど。
「ん、ちゅ、ずず…一条の胸、美味しい…」
「い、いぬ、が、がみさん、赤ちゃんじゃ、ないんですから… ひゃあう…」
一気に高まったのか、体を浮き上がらせて小刻みに震えている。
ますます締め付ける力が強くなるのを感じて私の射精感も唐突な限界を迎えた。
「あ、あ、あ、い、イっちゃい、ますっ… …!!」
「くっ… …私、も…!」
かり、と。
乳首を前歯で軽く噛むと、ひときわ大きく体を揺らした。
「〜〜〜〜! 〜〜〜〜〜〜〜!!」
言葉にならない声を上げ、しばらくすると体を止めた。
イったようだった。
私も、もう、限界だ…っ!
「私も、出すぞ… くっ… …!」
「…は、 い… は、はあ…」
息も絶え絶え、なんとか私の言葉に答えるとぎゅっと両足を私の背中にまわして思い切りしめつける。
今日は中に出していい、らしい…!
「ぐっ… ああ…」

びゅくびゅくびゅく、びゅぷ!びゅるる、びゅ…

「はあ、はあ、はあ、はあ…い、一条…」
「あ、ああ… 入ってる…入ってきます…犬神さんの、熱いの…」
夢見るような声で言葉をつむぐ一条。
とろんとした目で私を見つめてくれる。
たまらなくなって、すっと静かに、口付けた。

「…よかったです」
「そうか。…よかった」
裸で抱き合ったまま、言葉を交わす。この時間も、またたまらなく好きだった。
腕の中で目を閉じる一条は、まるで眠っているようだった。

「…本当は、チョコレートはあげるつもりじゃなかったんです」
「え?」
ふと、突然の言葉。何を意図しているのかわからず、とまどいの声をあげてしまう。
「私、お菓子づくりってあんまり得意じゃなくて…ほんの少し、しかちゃんと作れなかったんです。
 …恥ずかしくて、あげるつもり、なかったんです」
「それで…なんで」
「だって」
つい、と顔を上げる。
その顔は赤く染まって、さっきまでの私のように、少しだけすねているようだった。
「あの、ですね。…本当は、ちゃんとヤキモチ焼いてたんですよ?」
「え…」
「…あんな顔されたら、あげないわけにいかないじゃないですか…」
…するとあれか。
こいつはちゃんと、私の望むようなことを考えていてくれたわけで。
いたずらっぽい顔をしながらも、本当は南条に対抗意識を燃やしてくれていたわけで…。
胸に猛烈な喜びが去来した。
「その…嬉しい、ぞ」
「ええ、ええ。そうでしょうとも」
ぷいっと横を向いてしまった。…ああああ、可愛いなあ、もう!
我慢できなくなった。もう一度ぎゅうっと抱きしめると、またあのいびつなチョコレートを取り出した。

「………これで最後です。…召し上がりますか?」
「勿論」
即答。一条の顔が、すねているような雰囲気を残したまま、微笑みに染まった。
「来年は」
すっと。私の唇にチョコレートを押し付けると小さく言葉をつむいだ。

「もっともっと、食べきれないくらい、あげますからね」

もう一度重ねた唇は、やっぱりとても甘かった。


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