『兄妹愛』
ある日の真夜中。
桃瀬修は自分のベッドの上に寝転がりながら、暗い天井をじっと見つめていた。
しかしその視線は、横に置いてある目覚し時計への浮気を頻繁に繰り返している。
そんなことをしても意味が無いことはわかっていた。
ただ、速すぎる胸の鼓動につられてどうにも落ち着かないのである。
しばらくして彼は音を立てずに起き上がり、廊下へと通じる扉に向かった。
ドアノブにそっと掛けた手に力を込めて、ゆっくりと慎重にドアを開ける。
ギ、ギ、と僅かに扉が軋む音が、あたりを埋め尽くす闇の中に吸い込まれていった。
こっそりと部屋を出ることに成功し、足音を忍ばせながら廊下を歩いていく。
本当は扉を開閉する時も歩く時も全く音を立てないようにしたいのだが、
さすがにそれは不可能なようだった。
修の立てる物音で人が起きるということはないだろうが、
鋭敏になっている彼の感覚は自分自身の気配に対してすら神経質に反応してしまう。
「大丈夫…いつもと同じじゃないか」
そう心の中で呟くも、緊張を完全に解きほぐすことはできなかった。
だがそれもまたいつものことだと気付く。
「いつまでたっても慣れないなあ……はぁ」
音にならない溜息が口から漏れた。
そうこうしているうちに、修は目的の場所へとたどり着いた。
正確に言うと、その目的の場所と自分のいる空間を隔てるドアの前に彼は立っていた。
その扉は、同じ家なのだから当然だが、先ほど彼が後にした自分の部屋のものとそっくりである。
ただこの扉には、そっけない修の部屋の扉とは違いちょっとした彩りがつけられている。
今は暗くてよく見えないが、それは花やらウサギやらの飾りがついた一枚のボードだ。
そしてそのボードには、部屋に入る人が見落とさないように大きくこう書かれているはずだ。
「くるみの部屋」、と。
一瞬、いっそのこと引き返そうかと考えてみる。
しかし自分の高ぶった精神と肉体がそのような逃避を認めるはずはなかった。
それに今更許しを乞うたところで自分の罪が消えて無くなる訳でもない。
修はドアを思い切って開け、中へ入った。
途端、甘くて芳しい独特の雰囲気が彼の体を包み込む。
部屋の中は、夜への抵抗を見せる机上のテーブルライトによって微妙に照らされていた。
その光のコントラストの中、一人の少女がベッドにうつ伏せで横たわっている。
桃瀬くるみ――修の双子の妹である。
彼女は服を一切纏っていなかった。
淡い光のもとに晒される、背中から腰への艶やかなライン。そして張りと柔らかさを兼ね備えた尻肉。
その姿勢にも関わらず垣間見える胸の谷間は、くるみの女性としての豊かな成長を物語っている。
くるみは修が入ってきたことに気付くと、腕を伸ばし上半身を起こした。
そして後ろ手でドアの鍵を閉める修をじっと見つめながら、小さい声で口を尖らせる。
「遅いよ、兄貴ぃ」
「急いでもしょうがないだろ。ばれたら大変だし」
修はベッドへ腰掛けながら、やはり小さな声で言い返した。
くるみは滑るようにして兄の後ろへ移り、彼の体へ腕を絡みつかせ、背中にもたれ掛かる。
必然的に、修はその体でくるみの体温を直に感じることになった。
「何さ、せっかく服を脱いで待ってあげてたのに」
「はいはい、ありがとよ」
くるみの抗議に対する修の答えはそっけないものだった。
だが修の体に押し付けられたくるみの肉体の感触は、確実に彼の理性を侵食していた。
自分でもそれはわかっている。本当は今すぐにでもくるみの肉体に襲い掛かりたいと思っている。
それでも、自分の抑えがたい肉欲をくるみが誘導するままに曝け出すことは、
男として、そしてなにより兄としてのプライドが許さなかった。
――実の妹と関係を持とうという時点で、そんな羞恥心を抱く資格が無いことはわかっているのだが。
そんな修の矛盾をはらんだ葛藤を、くるみは理解しているのかいないのか。
妹のさらなる誘惑が、兄を情欲の世界へと引き寄せる。
くるみが呼吸をするたびに、熱をおびた吐息が顔や首筋をくすぐる。
くるみが少しでも動くたびに、柔らかい胸がむにむにと形を変えるのが背中で感じられる。
そして修の心は、言葉という具体的、直接的な攻撃により追い詰められる。
耳元でくるみがささやくのが聞こえた。
「早くヤろうよぉ、おにいちゃん」
修の理性が、折れた。
修が初めてくるみと肉体的な関係を持ったのは、二人が中学生の時だ。
きっかけは、部屋に隠し持っていた"その手の本"をくるみに見つけられてしまったこと、
そしてくるみがその本をぺらぺらと捲っている所にばったりと出くわしてしまったことだった。
くるみが自分の恥部を暴いている瞬間を目の当たりにし精神的に打ちのめされた修は、
彼女が人をちょっと小ばかにしたような態度で、それでいて躊躇いがちに語りかけてくるのを聞いた。
――ふーん、やっぱり兄貴もお年頃なんだねえ
――悪いか! エロ本の一つや二つぐらい俺だって読むさ
――兄貴、そんなに女の子の体に興味あるの?
――ん、そ、そりゃ、まぁ……
――だったら! 私の体、見せてあげるよ。だから兄貴も裸になって
その時のくるみとの会話を、修はその口調まではっきりと記憶している。
だがなぜ自分がそのような開けっ広げな返答をしてしまったのかは、今となっては思い出せない。
おそらくまともに返事が出来る精神状態ではなく、全くの上の空だったのだろう。
そうでなければ、いくら「ケセラセラ」という言葉を座右の銘としていたとしても、
場の流れに身を任せるままに簡単に妹の誘いに乗っかるはずはない。
少なくとも修自身は、その時の情事についてそう考えていた。
結局その初めてのふれあいは、それぞれの体をじかに触りあい相手を絶頂に導くだけで終わった。
しかし思えば既にこの時に、二人の関係が徐々に深まるのは時間の問題となっていたのだろう。
修はくるみとのふれあいの虜になってしまっていた。
くるみの指や舌が自分のモノに絡みつく質感は自分でコトを処理するそれを遥かに凌駕したし、
くるみの肉体を弄くり倒せる充実感は何物にも代えがたい楽しみとなった。
修の理性の外堀は次第に埋められていき、そしてついに一線が超えられてしまう時が訪れた。
高校に入ってすぐの頃だった。
修は、くるみの初めてをあっさり奪ってしまった。
苦痛に歪む妹の顔を見て心が痛んだが、自分の体を止めることは出来なかった。
行為が済んでから、修はくるみに謝った。
――わりぃ……
――いいよ別に
その時はそう言われてほっとしたものの、本当の所はどうだったのだろうか。
数日後に一緒に買い物に行くことになった際、修はくるみに洋服を買ってくれるようねだられた。
とはいっても店の前でくるみが「この服欲しいなー」と口にしただけのことであって、
彼女にそんなつもりはなかったのかもしれない。
それでも罪悪感に苛まれる修はその一言を無視することができず、
俺が買ってやるよ、という言葉を思わずくるみに掛けてしまっていた。
「いいの!?」と素直に喜ぶくるみを見て何だか切なくなったのを、修は未だに覚えている。
その後も修とくるみは、逢瀬を重ね続けた。
他の人にはわからないような方法で約束をし、夜中に修がくるみの部屋へ赴き行為に及ぶ。
週に一回、時には数回この儀式を行うことは、今では人知れず桃瀬家の習慣となっていた。
そして今夜もまた、二人の秘儀が執り行われるのである。
くるみの部屋に来てから数分も経たないうちに、修は彼女の体を味わい始めていた。
服は既に全て脱ぎ捨てている。
修はくるみの割と大きめな胸に手を掛けて、その弾力と温もりをじっくり楽しみながら揉みしだく。
くるみは気持ちよさそうな顔をして、修の愛撫に身体を委ねている。
修は彼女の美しい膨らみの全てを掴み取ろうかというぐらいに、指を広げて力を込めてみた。
彼女の乳房は完全には彼の手中に収まらず、その存在感を強く主張した。
昔は真っ平らだったのにな、と小さい頃をふと思い出して修は一瞬の感慨にとらわれる。
だが目の前に今いるのは、肉感的な女性へと成長しつつあるくるみ。
性の快感に目覚め、それを求めることを厭わないくるみ。
上気した顔で、何かを期待しているような目をして、こちらの顔を見つめるくるみ。
だとしたら、修としては彼女を満たすために努力するしか無いではないか。
修は顔をくるみの胸へ近づけると、その先端を口に含むやいなや吸い上げた。
「あぁっ……!」
先ほどまでとは性質の異なる攻撃を受け、声をあげるくるみ。
修はそれだけでは飽きたらず、舌で突起を嘗め回し、歯で軽く刺激を与える。
「んんっ……」
くるみは体を少しよじらせるが、彼の触手は獲物を手放したりはしない。
修はくるみの体を撫で回す。
胸から、脇腹から、おなかから、くるみの滑らかで熱気を帯びた感触を吸収する。
そしてその手は徐々に下腹部の方へと移動していき、ついにその愛撫はくるみの秘所に到達した。
目にしなくてもわかる、その部分から溢れてくる湿り気。
くるみの呼吸は、明らかに荒くなっていっていた。
指でくるみのそこを刺激する。突起を擦ったり、秘部に指を入れてみたり。
「んあっ、くぅぅ……」
修の耳のすぐ側で、くるみが声を上げた。
普段は勝気な彼女が発しているとは思えないような、可愛らしい嬌声。
それを聞く度に修は、自分が桃瀬くるみという一人の女の子を犯している現実を改めて痛感する。
自分の妹と深いレベルで心を通わせることの歓びは、修の興奮をさらに昂揚させる。
「そろそろいいか? もう我慢できないんだが……」
愛撫を一旦弱めると、修はくるみの顔を上目で見ながらそう尋ねた。
「兄貴は、相変わらず…エロいなあ……」
はぁはぁと高ぶる息を抑えながら、くるみは軽く憎まれ口を叩いた。
「そんなこと言うなら止めちゃうぜ」
「止められないのはむしろ兄貴の方じゃないの」
くるみは微笑みを浮かべながら言い返した。その頬は赤く染まり、体は汗にまみれている。
修も全身の血液が激しく体内を駆け巡るのを、はっきりと自分で認識していた。
いずれにせよ、ここまで来て行為を続けないということは不可能なのである。
「じゃあ行くぞ」
修の宣告に対し、くるみは何も言わずにただ頷いた。それで充分だ。
体を動かしてペニスをくるみの入口にあてがい、そして一気に挿入した。
「あぁっ、ぅぅ……」
どちらからともなく、快感の声があがる。修は腰を動かし始める。
くるみの体内の粘膜が、修の肉棒とこすれあう。
締め上げようとする女性と、押し広げようとする男性の対立。
一体化する修とくるみ。
小さな部屋に、淫猥な物音と、二人の熱い息遣いだけが響き渡る。
「はぁっ……あ、あ、……いいっ、よぉ…あにきぃ……」
「っくぅ……くるみ……」
修がくるみの胎内を往復するごとに、二人の口からは高ぶった精神が漏れいずる。
薄れゆく現実感覚の中、修は自分が限界へと昇っていくのを感じていた。
「ふう、んんっ……出すぞっ、くるみっ」
「んっ、あ、あ、あああぁぁぁ……!」
修のペニスはくるみの中でびくびくと痙攣し、精液を放出した。
くるみは絶頂に達した勢いそのままに、修の気持ちを受け入れる。
はぁ、はぁ、っはぁ……
二人は荒い息遣いを整えながら、余韻に浸る。
饗宴は、終わった。
行為が終わったあと、二人は協力して証拠の隠滅に取り掛かった。
汗と体液にまみれた体をきれいにしたり、乱れたベッドを整えたり、服を着たり臭いを消したり。
事後処理というものは須らく虚しさを伴うものだが、セックスの後のそれは格別だ。
けだるい体で自分の恥ずかしい行為を振り返るのは、何ともやるせない。
一段落がついて、二人はベッドの上に並んで座った。
修はさっきまでの自分達のことを思い出してしまい、何となく居づらい気持ちを感じた。
気まずい雰囲気をどうにかしようとして、くるみに話し掛けてみる。
「あー、その…ありがとな」
「まったく。エロ兄貴を持つと大変だよ、本当に」
エロ兄貴か……。全くその通りだ。
実の妹を何度も汚したんだ、どんな名称を与えられても仕方が無い。
「ごめんな、エロ兄貴で」
修はいつになく穏やかな声で呟いた。
そんな兄に、妹は寄りかかり、体を預ける。
「私はそんな兄貴が好きなんだけどなあ」
「……」
しばらくの間、二人はそのまま寄り添ってお互いがそこにいることを感じていた。
そして体を寄せ合う兄と妹は、あたかもそのまま一つの大きな存在へと昇華していくかのようだった。
ずっとこうしていたい、ずっとくるみのことを支えてあげたいと、修は思う。
全てが自分の思い通りになるような世の中だったら、どんなに素晴らしいだろう。
だが、そんな自己中心的な願いが叶えられるはずもないのだ。
……というか、現実問題として凄い眠くなってきた。
体を激しく動かして疲れているし、そろそろ寝ないと二人とも明日の活動に支障をきたしてしまう。
修はベッドから立ち上がった。
「じゃあ、俺そろそろ戻るわ」
「あっ……」
くるみの何か言いたげな素振りに気付き、修は彼女の方を振り返る。
「ん? どうした?」
彼女はちょっと恥ずかしそうな顔をして修の顔を見上げながら、ゆっくりと答えた。
「また……しようね?」
修は優しく微笑むと、くるみの頭をくしくしと撫でる。
くるみはぱあっと顔をほころばせた。
「じゃあな、おやすみ」
「おやすみ」
修はくるみに就寝の挨拶をして、部屋を後にした。
再び慎重な足取りで、来た道を逆の方向へ進む。
自分の部屋へと戻り、自分のベッドへともぐりこむ。
何だかんだ言って自分の部屋が一番落ち着く。
修はまどろみに落ち込む意識の中で、今この瞬間の幸せを噛みしめていた。
――まあ、なるようになるさ。
そんな言葉を心の中で呟きながら、修は眠りについた。
(終)